来 歴


薔薇は枯れて  ***に


誰もいない部屋で
電話が鳴っている
途切れがちのベルは
ためらいと不安を模倣して
しばらく鳴り それきりやむ
一枚の写真に残された
在りし日のほほえみ
食卓の薔薇はとうに枯れたまま

どの人も そう長く
同じ場所にはいない
向こうの部屋の窓も
窓辺の椅子も
やがて立ち去るまでの
休らいのひととき
いま 裏庭の緑の梢に
きらきらしている日の光もまた

どんなにたいせつだったか
失ったあとで悟るしかない
理不尽な約束に頬をうたれ
夢からさめたときには
出て行く後姿も見えないなんて
ひそやかにめぐっている日日
もっとひそやかに積もって行く哀しみ
薔薇は枯れて もう誰の声も聞こえない

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